リセッション入門 ①:定義と原因、アメリカの注目点

1987年10月19日、いわゆる「ブラックマンデー」と呼ばれる日、米国ニューヨーク市場のダウ平均株価は一日で約22%もの急落を記録しました。突然の連鎖的な売りが世界中に広がり、多くの投資家に深刻なショックを与えました。この事例は、リセッション(景気後退)の足音を市場がどれだけ敏感に受け止めるかを象徴しています。

本連載では、2回にわたって「リセッションとは何か」、そして「リセッションが株式市場に与える影響」について、基礎からわかりやすく解説していきます。

まず今回は、リセッションの定義やその判定基準、リセッションが起きる主な原因、そしてアメリカのリセッションが注目される理由について整理していきましょう。

リセッションの定義と判定基準

リセッション(Recession)とは、景気循環の中で「ピーク(景気の山)」を超えて経済活動が低迷し、不況局面に入ることを指します。景気循環は、景気が良くなる「景気拡張(エクスパンション)」期と、景気が悪くなる「景気後退(リセッション)」期が交互に繰り返されるサイクルです。リセッションがさらに長期間かつ深刻に続くと、デプレッション(恐慌)と呼ばれる、より大規模な景気悪化に至る場合もあります。

リセッションの判定基準は国によって異なりますが、代表的な例を挙げると以下のようになります。また、OECDやIMFなどの国際機関も景気後退に関する共通定義を提示していますが、実際の判定や発表のタイミングは各国政府によって異なるのが現状です。

  • 欧米:GDPが2四半期連続でマイナス成長となった場合にリセッションと判断されることが多く、わかりやすいため、報道でも頻繁に使われます。
  • アメリカ:全米経済研究所(NBER)がGDPのほか、雇用や所得など複数の指標を総合的に分析して判断します。発表まで時間がかかることもありますが、より精密な評価が可能です。
  • 日本:日本では、「景気動向指数(DI)」が活用され、指数が50%を下回る状態が一定期間続くと景気後退とみなされます。速報性が高いのが特徴です。

リセッションを引き起こす原因

リセッションは様々な要因が絡み合って発生しますが、代表的なのは以下の2つです。

景気循環

景気は拡大と縮小を繰り返す自然な波があります。拡大期には、企業の収益増加や雇用の拡大を背景に消費も伸びますが、一定のピークに達すると、需要が飽和し始め、生産や投資は縮小に転じます雇用や賃金も抑制され、結果として消費が冷え込むことで、経済はリセッションに向かいます

この景気の波にはいくつかの周期があり、代表的なものには次の4つがあります。

景気の波周期要因
キチンの波約40ヶ月在庫投資の変動
ジュグラーの波約10年設備投資の変動
クズネッツの波約20年建設投資の変動
コンドラチェフの波約50年技術革新の発生

これらの異なる周期の波が重なることで、景気の山と谷が形成されます。これらの波は個別に発生するのではなく、複数の周期が同時に作用しあうことで、実際の経済の変動がより複雑で多様な形となって現れるのです。

金利の変動

もう一つの要因が中央銀行による政策金利の操作です。景気過熱に伴うインフレ圧力に対応するため、中央銀行は通常、政策金利を引き上げます。すると銀行貸出金利や社債の利回りが上昇し、企業にとっての資金調達コストが増大。結果として設備投資や新規プロジェクトへの慎重姿勢を強いられ、売上や雇用にもブレーキが掛かります。こうして景気は徐々に冷え込み、不況期へと向かっていきます。

反対に、リセッションが深刻化した場合には、政策金利が引き下げられ、資金が借りやすくなることで経済の回復を促します。こうして金利の上下も、景気循環に深く関わっているのです。

なぜアメリカのリセッションが注目されるのか?

世界経済において最も注目されるリセッションはアメリカのものです。理由は、アメリカ経済が世界最大規模であり、その動向が各国の景気や市場に大きな影響を与えるからです。例えば、2024年時点でアメリカの名目GDPは29.18兆ドルとされており、2位の中国(18.74兆ドル)を大きく引き離しています。このような巨大経済が景気後退に陥ると、世界中の貿易、投資、金融市場へ波及するのは避けられません。

また、アメリカには「マグニフィセント・セブン」と呼ばれる巨大IT企業群(Apple、Amazon、Google、Meta、Microsoft、NVIDIA、Tesla)が存在し、世界中の株式市場にも影響を与えています。これら企業の株価はアメリカ経済に敏感に反応するため、リセッションが発生すれば世界中の市場に連鎖的な売り圧力がかかります。

特に、世界の投資信託や年金基金がアメリカ株に多くの資金を投入しているため、影響は地理的な距離を超えて及びます。したがって、アメリカのリセッションリスクは世界的に注目されるのです。

経済の波を正しく読むために

リセッションは、景気拡張の裏側にある「避けられない」局面であり、自然な景気の波の一部です。GDPの低下や金利の変動といった様々なサインが積み重なることで、経済は徐々に後退期へと向かいます。特にアメリカのリセッションは、その経済規模と市場への影響力から、世界全体の動向を左右する重要なトピックとなっています。

こうしたリセッションの兆しを正しく理解し、備えることは、個人投資家や企業にとっても重要なリスク管理のひとつです。

次回は、このリセッションが株式市場にどのような影響を与えるのか、そして個人投資家がどのように行動すべきかを中心に解説していきます。個人投資家が恐怖に飲み込まれず、合理的に行動するためのヒントをお届けします。

《参考文献》
“リセッションとは?意味や発生する原因、株価への影響” . 松井証券 . https://www.matsui.co.jp/stock/study/article/recession/ , (参照 2025-05-15).
“リセッションとは?株価との関係を知って投資のヒントを獲得しよう!” . わらしべ瓦版(かわらばん) . https://www.am-one.co.jp/warashibe/article/fuyasu-20220922-1.html , (参照 2025-05-15).
“リセッションとは?意味や原因、影響、気を付けたいポイントなどを徹底解説!” . 東京スター銀行 . https://www.tokyostarbank.co.jp/feature/education/trends/20221212_2.html , (参照 2025-05-15).
“世界の名目GDP 国別ランキング・推移(IMF)” . GLOBAL NOTE . https://www.globalnote.jp/post-1409.html , (参照 2025-05-15).
“マグニフィセント・セブン (マグニフィセント・セブン)” . SMBC日興証券 . https://www.smbcnikko.co.jp/terms/japan/ma/J0932.html , (参照 2025-05-15).