「リセッションが近い」と聞くと、投資家はまず「株価はどう動くのか?」と不安になるものです。過去を振り返っても、景気後退の局面では株式市場が大きく揺れ動くことがあり、投資判断を難しくしています。たとえば2008年のリーマンショック時や、2020年のコロナショックの際も、市場はリセッション懸念を敏感に織り込みながら、株価が激しく変動しました。実際に景気が悪化する前から株価が先に下がることもあれば、景気後退が確定した後に株価が底打ちすることもあり、その関係性は一見すると複雑です。
前回の記事では、リセッションの定義やその原因、さらに米国経済のリセッションが世界中から注目される理由について整理しました。今回はその続きとして、リセッションが株式市場にどのような影響を与えるのかに焦点をあてていきます。
株式市場とリセッションの関係を明らかにするとともに、リセッションを見極める際に注目される指標の動き、そして個人投資家が景気後退に備えるための具体的な方法について、初心者にもわかりやすく解説していきます。
株式市場とリセッションの関係
株式市場は、景気の動向と密接な関係を持っています。特にリセッションの兆しが見え始めると、投資家はその影響を株価に素早く反映させようとするため、市場は大きく揺れ動くことがあります。これは、株式市場が「速報性(経済の変化を他の指標よりも早く反映する性質)」を重視し、「これから何が起こるか」という将来の見通しを最も重視するためです。
実際に、正式なリセッション入りの発表は大きな注目を集めないこともあります。これは、政府や統計機関がリセッションを認定するまでに時間がかかるためであり、その頃には市場参加者にとってはすでに「織り込み済み(すでに株価に反映されている状態)」となっているケースが多いからです。例えば、「1年前に景気後退が始まっていた」と発表されても、株式市場はすでにその兆候を読み取って動いているため、株価には大きな影響を与えません。
リセッションを判断するための注目指標
では、投資家たちは何に注目しているのでしょうか。リセッションを見極めるには、米国が発表する経済指標を定期的にチェックすることが重要です。特に株式市場では、景気の現状だけでなく将来の見通しが株価に強く影響するため、「今がリセッションかどうか」だけでなく、「これからリセッションに入る可能性があるかどうか」も投資判断において重要になります。
そこで、リセッションの兆候を把握するために注目すべき経済指標を3つ紹介します。
FOMC(連邦公開市場委員会)
FOMCは、米国の中央銀行であるFRB(米連邦準備制度)が開く会合で、政策金利の方針が決定されます。金利が引き上げられると企業の資金調達コストが増え、個人消費や投資が冷え込みやすくなります。その結果、景気減速やリセッションにつながる恐れがあるため、FOMCの決定内容や議長の発言は市場に大きな影響を与えます。
米国雇用統計
毎月第一金曜日に発表される米国雇用統計は、失業率、非農業部門の雇用者数、平均時給など、労働市場の動きを総合的に示す重要なデータです。たとえば失業率が上昇すれば、企業が採用を控え始めている可能性があり、リセッションの兆しとして受け止められることがあります。
ISM製造業指標
ISM(全米供給管理協会)が公表するこの指数は、製造業の企業に対して行うアンケート結果に基づいて算出される指標です。一般的に50を上回ると景気拡大、50を下回ると景気後退と判断されます。特に製造業は景気の影響を受けやすいため、この指数はリセッションの先行指標として重視されています。ただし、一時的な変動で判断するのではなく、複数月にわたる動きを追うことが重要です。
これらの指標は、米国労働省やISM公式サイト、証券会社のマーケット情報ページなどで確認できます。
このように、株式市場は「リセッションが起きた」という事実そのものよりも、「リセッションが起きるかもしれない」という予兆に反応します。だからこそ、投資家にとっては、経済指標や企業の動向に日頃から目を配ることが大切になります。
個人投資家がリセッションに備える方法
リセッションが起きると、株価は大きく変動しやすくなります。そんな時に備えて、個人投資家が意識しておくと良いポイント3つを紹介します。
景気の先行きを意識する
株価は半年以上先の景気を織り込む「先行指数(数ヶ月先の景気を先取りして動く指数)」としての性質があります。そのため、株価が下がったからといって、直ちにリセッションが始まったとは限りません。DI(景気動向指数)やGDP(国内総生産)などの経済指数も合わせて確認し、自分自身で景気の流れを注視することが重要です。
リスク分散を心がける
株式だけに投資を集中させるのではなく、国債や金(ゴールド)などの安全資産を組み合わせることで、全体のリスクを抑えることができます。
また、リセッションであっても、すべての株が同じように下がるわけではありません。業種や企業によって影響は異なります。特に、景気に左右されにくい「ディフェンシブ銘柄(業績が景気動向に左右されにくい業種の銘柄)」と呼ばれる株は、比較的安定した値動きを見せる傾向があるため、不況に強い選択肢として注目されます。具体的には、生活必須品(食品・日用品・薬品)や、電力・ガス・通信・鉄道などの生活インフラを提供する企業などが該当します。
長期目線でコツコツ投資する
「ドルコスト平均法」のように、毎月一定額を継続的に積み立てる手法は、購入タイミングを意図的に分散させることで、相場の上げ下げによる影響を平均化し、価格変動リスクを軽減するのに効果的な方法です。特に相場の先行きが不透明な局面においては、短期的な相場の変動に左右されず、長期目線で安定的に資産を積み上げていくための有効な戦略といえるでしょう。
リセッションを学び、未来のチャンスに備える
リセッションは経済全体に大きな影響を及ぼし、株式市場はその予兆に敏感に反応します。株価は「今」ではなく「これから」を映し出す鏡であり、投資家には常に数歩先を読む姿勢が求められます。
この2回の連載では、リセッションの基本的な概念と、株式市場に与える影響について整理してきました。景気後退局面においても、適切な知識と戦略をもって臨めば、必要以上に悲観することなく、冷静に対応することが可能です。
リセッションは決して「投資の終わり」ではなく、視点を変えれば「チャンスの始まり」とも捉えられます。今後も経済の動向に目を配りつつ、状況に応じた柔軟で冷静な投資判断を心がけていくことが重要です。
《参考文献》
“リセッションとは?意味や発生する原因、株価への影響” . 松井証券 . https://www.matsui.co.jp/stock/study/article/recession/ , (参照 2025-05-16).
“リセッションとは?株価との関係を知って投資のヒントを獲得しよう!” . わらしべ瓦版(かわらばん) . https://www.am-one.co.jp/warashibe/article/fuyasu-20220922-1.html , (参照 2025-05-16).
“リセッションとは?意味や原因、影響、気を付けたいポイントなどを徹底解説!” . 東京スター銀行 . https://www.tokyostarbank.co.jp/feature/education/trends/20221212_2.html , (参照 2025-05-16).
“先行指数(せんこうしすう)” . 乙女のお財布 . https://www.tokaitokyo.co.jp/otome/investment/glossary/detail_se004.html , (参照 2025-05-16).
“初めてでもわかりやすい用語集” . SMBC日興証券 . https://www.smbcnikko.co.jp/terms/japan/te/J0917.html , (参照 2025-05-16).