NYで渋滞税を導入?世界のちょっとヘンな税金

2025年1月、ニューヨーク市で全世界初の「渋滞税」が導入されました。この税制は、マンハッタンの悪名高い交通渋滞を緩和し、さらに公共交通網の整備資金を調達することを目的としています。しかし、導入されたばかりの「渋滞税」には、予想以上の問題が浮き彫りになりつつあります。今回は、この渋滞税の詳細とその効果について、導入後の現状をもとにわかりやすく解説します。

渋滞税の概要と目的

「渋滞税」が課されるのは、マンハッタンのセントラル・パーク南側に位置するエリアです。この地域にはエンパイア・ステート・ビルディングやタイムズ・スクエア、ウォール街など、観光地や商業地区が集まり、常に交通量が多いエリアです。

具体的には、マンハッタン中心部に乗り入れる乗用車には、ピーク時間帯で9ドル(約1400円)、それ以外の時間帯には2.25ドル(約355円)の税金が課されます。また、小型トラックや通勤通学用以外のバスには、ピーク時間帯で14.4ドル(約2270円)が課せられ、大型トラックや観光バスには21.6ドル(約3400円)の税が課せられます。

ニューヨーク市では、毎日70万台以上の車がマンハッタン中心部に流入し、その渋滞が深刻な問題となっています。この渋滞は、世界最悪レベルとも言われ、ドライバーは1年間に100時間以上を渋滞に費やし、その経済的損失は30万円近くに達するとの試算もあります。この問題を解決するために、渋滞税が導入され、収入は主に公共交通機関、特に老朽化が進んだ地下鉄の改修に使われる予定です。

渋滞税導入後の効果

渋滞税導入から1週間後、ニューヨーク州都市交通局は、マンハッタン中心部の交通量が7.5%減少し、1週間の間に27万3000台の車両が減少したと発表しました。この結果から、渋滞税には一定の効果があったことがわかります。実際に、渋滞税の導入により、交通量が減少し、渋滞が多少緩和されたと見られています。

企業への影響と課題

一方で、渋滞税の導入には多くの反発もあります。特に、マンハッタンに商品を卸している企業にとっては、輸送コストの増加が大きな問題となっています。例えば、酒類を卸している企業では、渋滞税の導入に伴い配送料の値上げを決定したところもあります。大型トラックに課せられる渋滞税は1回の通行で3000円以上となり、企業側にとってはコストの負担が大きくなります。その結果、飲食店やスーパーも商品価格の値上げを検討せざるを得なくなっているのです。

酒類卸会社「Oak Beverages」のCSO(最高戦略責任者)であるマーレン・ブラチョ氏は、「渋滞税は非常に大きな影響を与える。コロナよりも悪い」と述べています。このように、輸送コストが増加すれば、それは最終的に消費者にも影響を与え、物価の上昇を招くことになります。

また、マンハッタンにあるレストランのオーナーであるフリオ・ぺニャ氏も、「値上げしなくてはならないが、一皿のパスタでどこまで請求できるのかと苦悩している」と述べており、企業にとっては厳しい状況が続いています。

地下鉄の利用促進とその問題点

ニューヨーク市が渋滞税を導入した背景には、車から公共交通機関への移行を促進したいという狙いがありました。市は渋滞税で得た収入を地下鉄の改修に充て、利用者数を増やすことを目指しています。

しかし、地下鉄には深刻な問題があります。ニューヨークの地下鉄は開業から120年以上が経過しており、その設備は老朽化しています。特に、一部の路線では100年以上前の信号システムが使われており、遅延や故障が頻繁に発生しているのです。また、駅にエレベーターやエスカレーターが設置されているのは全体の3割程度に過ぎず、インフラの近代化が急務となっています。

さらに、地下鉄の治安の悪化も大きな問題です。2024年には、地下鉄内で10件もの殺人事件が発生し、凶悪犯罪が相次いでいます。大みそかには、駅のホームで男性が見知らぬ男に突き落とされる事件が起き、その男性は重傷を負いました。また、12月には地下鉄車内で女性が火をつけられて死亡するという衝撃的な事件も発生しています。このような治安の悪化は、市民が地下鉄を利用しようという意欲を削ぐ要因となっています。

市民の不安と今後の課題

市民の間では、「地下鉄の治安が悪化している中で、渋滞税を払ってまで地下鉄を利用しようとは思わない」という声が多く上がっています。治安の悪化が続く限り、渋滞税を支払って公共交通機関に移行することには、かなりの抵抗感があると言えるでしょう。市民の安全に対する不安が解消されない限り、地下鉄の利用促進は難しいと考えられます。

また、渋滞税に対する反発は政治的にも波紋を呼んでおり、大統領のドナルド・トランプ氏は、この税制が「都市の競争力を低下させる」として反対の立場を取っています。彼は、「大統領に戻った最初の1週間で渋滞税を廃止する」とも述べており、実際に就任後、トランプ政権はニューヨーク市に対し、渋滞税を3月21日までに廃止するよう要求しています。

運輸省は渋滞税の認可を取り消し、同省の連邦道路管理局(FHA)は2月26日に公表したニューヨーク市宛ての書簡で、渋滞税を秩序ある方法で終了させる時間を与えるための期限を設定したと説明しました。

これを受け、ニューヨーク市の公共交通機関を運営するMTA(メトロポリタン・トランスポーテーション・オーソリティ)とニューヨーク橋梁(きょうりょう)管理当局は、認可取り消しに対し差し止めを求めて提訴しています。

これらを通して

ニューヨーク市の渋滞税は、一定の効果を上げたものの、さまざまな課題が浮き彫りになっています。交通渋滞を緩和し、公共交通機関の利用促進を目指す一方で、企業や市民への経済的な負担が増大し、地下鉄の治安の悪化が市民の不安を募らせています。今後、渋滞税が持続可能な政策となるためには、公共交通機関の改善や治安の回復が不可欠です。市がどのようにしてこれらの課題を解決し、渋滞税を効果的に活用するかが、今後の鍵となるでしょう。