相場で生き残るために出来高が重要な理由①『出来高・価格分析完全ガイド ──100年以上不変の「市場の内側」をトレードに生かす』より

出来高は、ほとんどのチャートにデフォルトで表示されていますが、それが何を示すのかピンと来ていない人も多いのではないでしょうか。
出来高を観察してみると、米国の経済指標時に非常に多くなっていたり、日本時間の深夜は、少なくなっていたりします。

そんな出来高を『出来高・価格分析完全ガイド ──100年以上不変の「市場の内側」をトレードに生かす』(PanRolling)の本をもとに今回から数回に分けて紹介したいと思います。
なぜなら、出来高は相場で生き残るために必要不可欠なものだからです。今回は、この出来高がなぜ重要なのかを深掘りしていきます。

著者、監修者、翻訳者の紹介

著者 アナ・クーリング(Anna Coulling)

フルタイムのFXトレーダーであり、商品先物トレーダー、株式トレーダー、マーケットアナリスト兼作家。約20年前にトレードを始め、あらゆるマーケットでの取引を経験。現在は3分野に集中している。若い世代のトレーダーの育成にも力を入れ、セミナーやオンラインセミナーを開催。VPA(出来高・価格分析)を用いて、メディアでの発言も多い。英ロンドン近郊のチグウェル在住。

監修者 長尾慎太郎(ながお・しんたろう)

東京大学工学部原子力工学科卒、北陸先端科学技術大学院大学で修士(知識科学)を取得。日米の銀行、投資顧問会社、ヘッジファンドを経て、現在は大手運用会社に勤務。Pan Rolling社の著名な監修者であり、テクニカル分析やファンダメンタル分析の幅広い専門知識を持つ。『マーケットの魔術師』や『ゾーン – 相場心理学入門』などの投資関連書籍を監修。セミナーや講演会での教育活動も行い、初心者からプロまで広く支持されている。

翻訳者 山下恵美子(やました・えみこ)

電気通信大学・電子工学科卒。エレクトロニクス専門商社で社内翻訳スタッフとして勤務したのち、現在はフリーランスで特許翻訳、ノンフィクションを中心に翻訳活動を展開中。

マーケットメーカーと個人投資家の関係

少し、トムさんとサムさんの話にお付き合いください。
ある町に巨大な果物市場があり、大きな果物商社のトムさんと、小さな果物店を営むサムさんがいました。トムさんは大量の果物を仕入れて価格を自由に設定できましたが、サムさんは市場の価格に従うしかありません。

ある日、トムさんは「今年は果物が不作だ」という噂を流しました。サムさんは果物を仕入れられなくなると思い、高値で果物を買い集めました。トムさんはその時に高値で果物を売り、利益を得ました。しかし、実際には果物は豊作で、トムさんは価格が安くなった後に大量の果物を買い戻しました。結果的にトムさんは、最初に持っていた量の果物を再び保有し、さらに大きな利益を上げました。

もちろんこれは作り話です。
しかし、トムさんをマーケットメーカー(価格を設定できる人)、サムさんを個人投資家と考えてもう一度この話を読むと、見え方が変わるのではないでしょうか。

マーケットメーカーは通常、多くの従業員を抱える国際金融機関です。
個人投資家は、この価格を設定できるマーケットメーカーと同じ相場で戦わなければなりません。

この現実は今も将来も変わらないでしょう。
つまり、現実を受け止めて戦うか、相場から離れるかの選択しかないのです。

出来高が教える取引の裏側

前置きが長くなってしまいましたが、ここで出来高の話に戻ります。
出来高が重要な理由は、出来高がこの不平等な相場の中でマーケットメーカーに応戦するための武器となるからです。

当然、マーケットメーカーは彼らの動きを公表しません。個人投資家が彼らの動きを知ることは不可能です。
ただし、彼らがどんなに情報を隠しても、相場で売買しない限り価格を動かすことができません。

そして、これが出来高として現れるのです。出来高は取引量を表すため、彼らの売買を反映します。
つまり出来高は、市場の内側を見るための最良のツールなのです。

また、出来高は市場を動かす燃料のようなもので、出来高がなければ取引数が少ないことを意味し、相場は動きません。
出来高が多い時は取引回数が多く、しっかりと値段が動くことが多いです。
逆に、出来高が少ないにもかかわらず相場が動いているときは何かがおかしい時であり、出来高が警鐘となります。

まとめ

これまで、出来高が相場の内側を見ることができる素晴らしいものであると述べてきましたが、価格と出来高の関係性を正しく分析するインジケーターは存在しないこともお伝えしておきます。トレードはアートであって科学ではないのです。

今回はなぜ出来高が重要なのかを解説しましたが、次回からはその出来高の詳しい分析や考え方について深掘りしていこうと思います。では、また次回お会いしましょう。

最後に、本書でも紹介されているリチャード・ワイコフの言葉で締めくくります。

「トレードも他の投資も他の追求と同じである。長く携わるほど、テクニックは上達する。額に汗することなく近道をする人は、誤った道を行くことになる。」

出来高・価格分析完全ガイド ──100年以上不変の「市場の内側」をトレードに生かす アナ・クーリング[著], 長尾慎太郎[監修], 山下恵美子[翻訳] PanRolling, 2015, p.123

参考・出典
出来高・価格分析完全ガイド ──100年以上不変の「市場の内側」をトレードに生かす アナ・クーリング[著], 長尾慎太郎[監修], 山下恵美子[翻訳] PanRolling, 2015