公開日: 令和6年(2024年)8月1日
著者: 安原 渉平
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ハバード経済学I 入門編
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日本経済出版社
Hubbard R. G., O’Brien Anthony Patrick, 竹中 平蔵. ハバード経済学. I, 入門編
あなたは日常生活の中で、「なぜこれがこんなに高いのか?」、「どうしてこのサービスはこんなに人気があるのか?」と考えたことはありますか? 今回の書籍では、これらの疑問に対する答えを見つける旅へご招待します。この旅は、ただの数式や難解な理論を学ぶことではありません。日々の生活や社会の動向を理解するための鍵を手に入れることです。経済学はあなたに新しい視点を提供し、世界の見方を変える力を持っています。そんな経済学の魅力を、「ハバード経済学I 入門編」と共に探求してみませんか?
ハバード経済学は、企業経営や公共政策に応用できる経済学の基本を学ぶための一冊です。ハーバード大学やコロンビア大学など、全米300以上の大学で採用されています。現実の経済やビジネスに関連する多様な話題を取り上げており、日本の事例も交えながら経済学の基礎を分かりやすく解説し、その実用性を具体的に示しています。著名な米国の教授陣によるこの入門書は、経済の「生きた仕組み」を理解する手助けとなる素晴らしい書籍です。
1.経済学の基本概念
まず初めに、経済学は消費者、企業経営者、そして政府の役割を中心に展開される学問です。「ハバード経済学I」では、経済学の三つの主要な概念である「人間は合理的である」、「人間はインセンティブに反応する」、そして「最適決定はその限界においてなされる」が詳しく説明されています。下記はそれらを引用した文章です。
- 人間は合理的である:”すべての人が常に「最良の」 決定をするという意味ではない。消費者や企業が目標達成のために行動するにあたり、入手可能な情報をすべて活用していると仮定する、という意味だ。“
- 人間はインセンティブに反応する:”宗教への信仰、嫉妬、同情など、人間の行動の裏には様々な動機があるが、消費者や企業が一貫して反応するのは経済的なインセンティブである、と経済学者は主張する。”
- 最適決定はその限界においてなされる:”経済学者は、最適決定とは、限界便益と限界費用が等しくなるまである活動が継続することと考える。”
1つ目の“人間は合理的である”は、わかりやすく述べるならば、書籍では“一つひとつの行動に対する費用と利益を比較し、利益が費用を上回るときだけ行動を起こす。”と別の表現で書かれています。例えば、マイクロソフトの経営者がWindows1本につき239ドルの価格をつけた事例があり、そのWindowsが265ドルならもっと利益を出せたかもしれないと著者は述べています。これがマイクロソフトの経営者が間違っているならばその可能性がありますが、この1つ目の概念を引用してマイクロソフトの経営者は利用できる情報を全て用いて合理的にこの価格を決定していると考えるのが妥当であるとの説明をしています。
2つ目の“人間はインセンティブに反応する”は、多発している銀行強盗を防ぐ手段として武装ガードマンを導入する事例を紹介していますが、この例では銀行強盗による平均被害額が1,200ドルほどで、ガードマンを導入する費用には数万ドルかかるという事実から、経済的なインセンティブを優先して銀行強盗を許容してしまう仕組みの解説をしています。これは1つ目の合理性とも繋がるような内容であると思います。
この3つ目の最適決定においては、次のテーマの中で述べているので確認してみてください。
1.2.トレードオフと限界
すべての経済社会は、トレードオフ(取捨選択)の問題に直面します。一つの選択をすると、別の選択肢を諦めなければならないというジレンマです。ハバード経済学Iでは、このトレードオフの概念を理解するために、限界費用と限界便益という視点を提供しています。経済学者が「限界」という言葉を使う時、そこには「追加の」という意味があるそうです。そして、書籍ではテレビを見ることを例にとり
- 限界費用:“限界費用(Marginal cost、記号ではMCと表す)とは、勉強時間を減らすことによって起こる成績の低下である。”
- 限界便益:”限界便益(Marginal benefit、記号ではMBと表す)とは、テレビを見ることによって得られる追加の楽しみのことである。“
との記載があります。
また、ダイヤモンドオンラインにこれらの概念を説明している分かりやすい記事があったので、こちらも共有しておきます。ぜひ一読してみて下さい。
この記事にもある通り、限界費用(効用)は量が増えれば増えるほど逓減(少しずつ減少していくこと)していくという一般的な法則があります。これは、限界便益の場合は逆に逓増していく法則があります。
この2つの概念はグラフ化すると、このような関係性を見ることができます。
前のテーマの3つ目である最適決定とは、この限界費用と限界便益が等しくなる点であると先ほど確認しましたが、それはこの図で言う最適点になります。
なぜ交差する点が最適決定となるのか?に関しては、上記のダイヤモンドオンラインに出ている人間の環境への慣れが分かりやすい例になるのではないでしょうか?
これは、最初に限界便益と限界費用の定義を確認した時の勉強とテレビを見ることの利害関係も同じです。
1.3.経済モデルの構築と解釈
経済学者は複雑な経済現象を理解し予測するために、経済モデルを使用していることを述べましたが、ここではその経済モデルの構築がどのようにできているのかを確認します。
経済モデル:現実世界の経済活動を簡略化して表現するための仮定と図式化のことです。モデルは、経済活動の基本的なメカニズムを理解するための枠組みを提供し、政策の効果を予測するためのツールとして機能します。
書籍の中で、経済モデルの構築のためには、次のような手順を踏むという記載があります。
- そのモデルを構築する際に使用する仮定を決める。
- 検証可能な仮説を立てる。
- その仮説を検証するために経済データを使用する。
- 経済データを説明できなければ、モデルを修正する。
- 将来的に同じような経済問題を解決するためにこの修正モデルを保持する。
書籍の中では、ある仮説についてのそれを分析した経済学者の意見が異なる場合において、それぞれの仮説を検証するために使用した統計分析の解釈について意見が分かれていることが原因である場合が多いと述べられています。
皆さんはこのことについてどのように感じますか?
もし自分とは違う意見を持つ人の意見を見つけた場合、その意見を構築する上でどのような理論が用いられていて、その人がどのような解釈を持っているのかについて十分に考えることが大切と言えるのではないでしょうか?
世界で日々流れてくるニュースには、このように経済学の理論を用いて専門家が意見を話すテーマが様々にあります。
例えば、書籍では移民問題において移民がその国の賃金に与える影響といった仮説についての議論を例に挙げており、仮説を検証する際に使用した統計分析の解釈における意見の違いや経済モデルの違いについて話しています。
自分がこのようなテーマに触れ、考えを持った時、現実はどうなっているのかに注目する実証分析、どうあるべきかに関する分析をする規範分析の違いが、因果関係と相関関係の違いを理解すること、社会を正しく見ることに繋がります。これは、人間の意思決定の行動を考察する社会科学の側面が経済学にもあると、他の学問の分野への共通点を見出すポイントでもあると著書では述べられています。
今回は長くなるので、この辺で終わりにしたいと思います。
経済モデルについては、また別の機会の時に実際の例を用いて詳しく解説できれば解説していきます。
著者の紹介:
ハバード,R. グレン (Hubbard, R. Glenn)
経済政策アドバイザー、大学教授、研究者である。コロンビア大学ビジネススクールの校長およびラッセル・L・カーソン教授(金融論および経済学)を務め、コロンビア大学文理学部経済学教授でもある。1983年にハーバード大学で経済学のPh.D.を取得している。2001年から2003年にかけて、大統領経済諮問委員会委員長およびOECD経済政策委員会委員長を歴任した。代表的な経済学の学術誌に100以上の論文を発表している。
オブライエン,アンソニー・パトリック (O’Brien, Anthony Patrick)
受賞歴のある大学教授、研究者である。リハイ大学経済学部の教授である。1987年にカリフォルニア大学バークレー校でPh.D.を取得している。リハイ大学から優秀教育賞を受賞した。数多くの代表的な経済学の学術誌に論文を発表している。